【棒銀一筋】加藤一二三の魅力【神武以来の天才】
[最終更新日:2005年4月19日]
王位戦
- 232 名前: 第25期王位戦第1局 05/01/02 10:58:04 ID:jIhbAxGl
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*三重県菰野町湯の山温泉「寿亭」
旅館のすぐわきは三滝川の清流だ。送り梅雨の最後の大雨が
前日降った。水量は平日の倍以上となり、瀬の音が一段と激しい。
前夜、加藤はこの瀬のすごい音を嫌って部屋を替わってもらった。
(中日新聞 S59/8/2)
*一日目
この日、加藤は上機嫌で、呉越同舟の昼食のときもさかんに
しゃべった。一分将棋の話になり、秒読みで百手以上指したことが
何度もあると笑顔でいう。記者の一人が「秒読みをそばで見ていると
心臓に悪いけれど、加藤さんは大丈夫ですか」と聞くと
「ええ、私は平気です。心臓の方はいたって丈夫ですから」と
笑わせた。珍しいことだ。
一方の高橋の方はというと、相変わらず無言で、黙々と天ザルの
エビ天を食べている。表情からは何も読み取れぬ。したたかな
ものだと思った。
(中日新聞 S59/8/4)
*2日目夕食休憩後、83手目▲1七角のあたり
三分遅れで加藤が駆け足で現れた。「時間入りました。残り五十九分
です」と記録係がいう。加藤は「はい」と答え、座るなり1七角と出た。
勝負手である。受けてもきりがない。とすれば攻め合うのみという気合
である。そして加藤、持参したチョコレートをうまそうに食べだした。
いかにも幸福そうである。形勢と食欲は別らしい。
(中日新聞 S59/8/10)
- 238 名前: 第25期王位戦第2局 05/01/02 22:19:16 ID:SFCBWdnF
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加藤は持参の扇子で、えり元にしきりに涼を入れる。この姿が見られる
ようになったのは、三重県湯の山温泉の大一局からで、対中原の挑戦者
決定戦の時、加藤は扇子を持っていなかった。
その以前も扇子なしがほとんどで、絶えて久しい持参なのである。
第四十期名人戦(五十七年度)記念に作った扇子で、右半分は中原名人
(当時)の筆で「天地」と書かれ、左半分には加藤の書で「心技」挑戦者
十段、加藤一二三、と記されている。
(中日新聞 S59/8/19)
*2日目、60手目あたり
加藤は長考に沈んだ。その途中、昼の食事の注文を記者の一人がききに
来る。これも加藤は長考後、「すしにトマトジュース、それにオレンジジュース
とホットミルク」といろいろ注文。
二日目は羽織なしの高橋、お地蔵さまのように静かで、加藤がきめたあと
小さな声で「天ざるをお願いします」。
加藤の健啖家ぶりには、初めての関係者はみなびっくりしていた。
一日目の三時など、メロンにスイカ、ホットミルク三杯にケーキ、モモといった
大量注文。二日目も心配していたが、一日目の半分くらいで関係者はホッと
したとか。これは後で聞いた話だが・・・。
(中日新聞 S59/8/21)
- 239 名前: 第25期王位戦第2局 05/01/02 22:21:12 ID:SFCBWdnF
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*83手目▲6八金引のあたり
対局室に戻ると、加藤は上体を前後に揺すり、ときどき空セキを繰り返していた。
夕食休憩再開のとき持ち込んだ板チョコが傍らの盆に、五分の一ほど銀紙が
むかれ、投げ出したように置かれている。
加藤は甘いものが大好物なのだ。
(中日新聞 S59/8/24)
*97手目▲4四馬のあたり
加藤はせわしげに立ち上がって遮光カーテンと障子を開けた。うっとうしく
思っていたからに違いない。
外は暗いが開けておいた方が確かに気持ちがいい。しかし、十分もしない
うちにガラス窓にガや小虫が集まりはじめた。
〜 中略 〜
高橋は盤上を歩く小虫を気にしながら、当然の5三金に二十五分も消費。
少しの隙間からまた小さなガや虫がだいぶ入ってきた。窓ガラスには
うるさいくらい虫がちらついている。
さすがの加藤もたまりかね、立ち上がって障子だけ閉めた。
(中日新聞 S59/8/25)
*107手目▲6七玉のあたり
ついに加藤は一分将棋だ。おしぼりは、何匹か虫をおさえてしまったので
使えない。ハンカチを取り出し、首筋や額の汗をふいている間に秒読みが
始まる。
- 248 名前: 第25期王位戦第3局 05/01/03 21:25:16 ID:d+QVYqfo
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前日の新幹線の中でも、対局場入りしてからも、加藤九段は笑顔を
ふりまいた。こんな加藤九段を見るのは初めてのような気がする。
たとえば対米長戦などの加藤九段は、貝のように心を閉ざしてしまう。
相手が「尊敬する棋士は加藤先生です」という高橋王位だからだろうか。
(中日新聞 S59/8/30)
- 250 名前: 第25期王位戦第4局 05/01/03 21:28:43 ID:d+QVYqfo
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加藤に聞いたところによると、加藤はこれまで胃をこわしたことがない
とのこと。「将棋は体力」よく物が食べられるということはいいことだろう。
ちなみに本局でも、加藤の胃袋は絶好調だった様子で、朝夕は普通
ながら、昼食は二日ともテンダーロインステーキのフルコース、そして
夜食にやはり二回、都合四枚のステーキを食したようだ。
(中日新聞 S59/9/14)
*33手目▲3七桂の局面、物静かな高橋の描写の後
一方の加藤は動物園のクマのようによく動く。急に立ち上がって腕組み
したり、目を大きく見開いたり、手が駒台にスーッと伸びたりなど・・・・・・
少しもじっとしていない。
その加藤、窓際のソファから突然といった感じで戻ってきて、高い駒音で
6五歩と伸ばす。
(中日新聞 S59/9/15)
- 252 名前: 第25期王位戦第5局 05/01/04 23:11:22 ID:4McY1Sk2
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*徳島市中通町「澄屋旅館」での対局
地方に出た場合、こうした町中での対局は珍しい。
景色がいいとか、温泉地が会場に選ばれることが多いが、加藤は
「水音もなくむしろ町中の方が静かで、私は好きです。時代を経た
木造建築も落ち着いた雰囲気があり、悪くないと思います。
(中日新聞 S59/9/26)
*記録係は阿部隆
係の記者が夕食の注文を聞きに来た。加藤が席を離れていたので高橋が
さきに「天ざるにデザート」として、モモをきめる。
加藤は「スープにビフテキ、それにモモとパン」。しばらく間を置いて、それで
結構ですといった。
記録の阿部二段(十七歳)に「君は何にする?」ときくと、「同じで―」という。
王位と同じかと思い確かめると、「加藤先生と―」ということだった。
「モモはいりません」とちょっぴり遠慮したが、遠慮は無用。記録の少年が
小食だと、どこか悪いのではないかと心配になる。
(中日新聞 S59/10/1)
- 260 名前: 第25期王位戦第6局 05/01/06 23:23:46 ID:vID4wFLf
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*東京渋谷「羽沢ガーデン」、立会人丸田祐三
丸田九段が少々困惑の表情を見せている。
加藤が当日の朝、対局場入りすると聞いたからである。タイトル戦の対局者
は前日に対局場入りし、終局まで”カン詰め”になるのが通例。丸田は将棋
連盟の理事に規約を確認するなど、さっそく立ち会いの仕事を開始した。
心配するのは、翌日韓国大統領が来日、つまり道路事情である。
「早めに自宅を出るように、電話でいっておいたよ」と丸田。
(中日新聞 S59/10/10)
二日目の朝は薄曇り。控室でスタンバイしていると、中庭の方から祈りの
声が聞こえてきた。隣の加藤の部屋からである。あるいは聖書を音読して
いたのかもしれない。穏やかで、少年のように透明感のある声だった。
(中日新聞 S59/10/15)
- 261 名前: 第25期王位戦第7局 05/01/06 23:25:42 ID:vID4wFLf
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*一日目
昼食の注文に両者とも「カレーライス」。この七番勝負中、初めて二人の
注文が合致した。
(中日新聞 S59/10/25)
*二日目
加藤は昼食にもう”お得意”となっているステーキをとった。後半戦へ
ファイト満々。ぐっと張り出したおなかが、高橋にそれを伝えている。
(中日新聞 S59/10/29)
*二日目夕食
夕食時、例によって加藤はステーキなどたくさん詰め込んだ。
(中日新聞 S59/11/1)
*140手目△7三香のあたり
旅館の若奥さんが「先年も浩宮さまが史跡めぐりに見えて食事を
されました。ちょうど今の高橋さんの席に大学の先生が座られ、
加藤さんの席の浩宮さまが先生にビールなどをついでおられました」
と話していたのをふっと思い出す。
浩宮さまの席の加藤はもう正座のまま、「七番勝負中、よく食べたので
五キロふとって八十二キロになりました」という巨体をせわしなくゆすって
いる。縁起をかついでか、七局全部同じだった見慣れたネクタイが激しく
前後にゆれる。
時間がないので取った駒を左手に握るのも加藤独特のしぐさだ。
(中日新聞 S59/11/3)
- 262 名前: 第25期王位戦第7局 05/01/06 23:27:38 ID:vID4wFLf
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*終局後の話
数日後、加藤新王位に会った。あの澄んだ目がさらに輝いていた。聞く
前に話し出す。
「家へ帰ってから、七局の将棋全部を並べ直してみました。あの七局目は、
夕食前に玉頭攻めに出ましたが、あの段階ではぎりぎりの勝負。勝てる
かも、負けるかも、と思いながらも攻め合いに出ました。危険だけれど、
それしかないと思い決意したんです」
盤上一筋の姿勢が見える。その姿を崩さず続ける。
「そこで高橋さんが弱気を出してくれたので明暗がはっきりしました。
会心の将棋です」
そこまできて、高橋が次の一局に勝ったことを伝える・
「それは良かった」。信仰を持つ人のやさしい目だった。
- 544 名前: 32 05/02/13 23:16:05 ID:ymrphh45
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王位戦観戦記で私が一番興味を引かれたのは
>>260
>丸田九段が少々困惑の表情を見せている。
>加藤が当日の朝、対局場入りすると聞いたからである。タイトル戦の対局者
>は前日に対局場入りし、終局まで”カン詰め”になるのが通例。丸田は将棋
>連盟の理事に規約を確認するなど、さっそく立ち会いの仕事を開始した。
>心配するのは、翌日韓国大統領が来日、つまり道路事情である。
>「早めに自宅を出るように、電話でいっておいたよ」と丸田。
>>37にも書いたように
>第十期王座戦で優勝した加藤先生はその前年も決勝に進出。
>その第1局になんと36分の遅刻。自宅から「車が拾えなくて」とのこと。
>3倍の1時間48分を引かれた先生はこの将棋を落とし、結局準優勝に終わりました。
と加藤先生には自宅から対局場入りして遅刻した前科があります。
それでも同じことをしようとする、あまりにも加藤先生らしいエピソードですね。